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黒いユリウス

うちで飼っていた犬が死にました。
父母が寂しさ紛れに、めちゃくちゃ探して買った黒い犬です。
父母はその犬に古代の大英雄と同じ名前をつけて、
子供というよりもまるで孫みたくベタベタに可愛がりました。


私は父母ほどその犬を可愛がってなかったと思います。
少なくとも、あいつが子供でイタズラばっかしてた頃は。
そもそも「もう一頭犬を飼おうと思う」と父母が言い出した時、
私は一番最後まで頑強に反対し続けました。

人の寂しさを紛らわせるためだけに、犬の生が巻き添えを食らうと思ったからです。
まず十分なしつけをしてやれるような時間なんて到底とれないし、
「いまうちで飼っている老犬が死んだら寂しいから、死ぬ前にもう一頭欲しい」
だとかいう理由で飼って、もしもしつけがなってないせいで、
飼った犬がたくさんの誰かに嫌われるようなことになったら、私は耐え切れない。
それに、可愛がってやれるだけの時間的余裕がいまの生活にはない。
そのことで私は、父母とだいぶケンカしました。

まだ小さかったあいつが来て、それから数ヶ月経ってもまだ。


しばらくして、知人のツテでドッグトレーナーさんを頼んで、
犬を訓練してもらうことになりました。
トレーナーのお姉さんはいい人で、うちの犬の性格をよくわかってました。

お姉さんとも顔なじみになった頃・・・
あいつはうちの老犬とのやり取りも板についてきて、
周囲の人とも仲良くなって、近所に友達がたくさんできて、
いろんな場所に行けるようになって、番犬としても能力を発揮しはじめました。

気がついたら、私はあいつを許していました。
新しく買った服や靴を駄目にされたこと、夜吠えてうるさかったこと、
どこでもおもらしして、目立つような所にばかりうんちしたこと。
気がついたら・・・
あいつがいまだに迷惑なことをしでかすのさえ、生活の一部になっていました。


今日も、いつもどおりでした。

イタズラ好きのあいつが老犬にしつこくちょっかいを出して。
あいつはあまりにしつこくつきまとっていたので、
怒った老犬に現役さながらの勢いで追いかけまわされていました。
いつもどおりです。
お昼過ぎ、いつもの場所にいた私は、いつもの彼らをよく見ませんでした。
それで、30分後くらいに父がいつもの用事に出ていきました。
あいつらも、いつもどおり、いつもの場所にいたんです。
それでさらに30分くらい後、いつもどおりに父は帰ってきました。

父は、普段は鳴らさないクラクションを鳴らして、
外から大声で私と母を呼びました。

「おい! 早く来い! シーザーが車に轢かれて死んだぞ!」

何を馬鹿なことを、オヤジ疲れてんじゃねーの、と思いました。
その父の声に驚き、母が裏口から焦って出て行きました。

「えっ・・・・ちょっと・・・・い いやぁあ! シーザー・・・」

おいおい、おかあちゃん・・・演技じゃなかろうな? と思いました。
でも母の声は止まなかった。
ほんとかよおい、と思いました。

私はしばらく動けませんでした。
体にうまく力が入りませんでした。
とくに足が動かなくて、頭の中が暗くなったような感じでした。

遠くから父と母の声が聞こえてきて・・・

あいつはうちの近くの十字路で何者かの車に轢かれたらしいこと、
先ず見るに即死であろうこと、そしてあいつが轢かれた所は、
行き止まりであるうちの方に用がある者以外は通らない場所であること、
あいつが消えていた十数分ほどの間に事故が起きたらしいこと、
電話越しみたいにそういう内容の会話が頭に入ってきました。


それから私は、車に載せられたあいつを見に、外へ出ました。

寝てるみたいなあいつがいました。
父が抱き上げると、開いた口からだらりと舌が垂れました。
少しだけ血が出ていました。
そのときはまだ、父も母も泣いていませんでしたが、
やっぱりあいつは死んでいるみたいでした。

半開きの眼、片方だけ裏返った耳、歯が白くて、
真っ赤な舌が泥で汚れていました。汚れたままの、だらりと、舌―


あのとき、私はどうなったんだろう。

とにかく叫んで、走りました。

わからないけど、履いていたサンダルをふっとばしながら走って、
芝生を越えて、林を越えて、荒れ野になった古い庭まで走りました。

たしか、いやだ、いやだ、って叫びました。

あとはなんだろう。
どっから出たのかわからないくらいでかい声で叫びました。
叫びながら、丈の高い周りの草や笹を手当たり次第にちぎって、
どこもかしこも殴りつけて・・・
すぐそばの池からカモが飛び立つのが見えました。
いつまでそうしてたのかは知りません。

頭がくらくらしてきて、それで気がつきました。

たぶん怒りで、眼の前がかげろうみたくなっていました。


そのあと、私はあいつが轢かれたあたりを見に行きました。
いろんな車が気になりました。
しばらく現場付近をみましたが、やはりどうにもなりませんでした。

諦めて後戻りした道ばたに、たくさんのたんぽぽが咲いていました。
なぜだか、ものすごく綺麗でした。
たくさん涙が出ました。

そのとき、ふと自分の手に冷たさを感じました。
手を開いて見てみました。
血が流れていました。
走っていったあと、たぶんどこかで切ったんだと思います。
思いのほか血が出ていました。
でも、どうでもよかったです。

あいつはスモモの樹の下に埋められました。
花が散りかけてます。
山のにおいと、花のにおい、とても優しいにおいが漂ってました。
毎日外に出ていても、これほど優しいにおいの日は、なかなかないです。


優しいにおいの日に、あいつは死にました。

あいつは車に轢かれて死にました。

苦しまなかったであろうことがせめてもの救いです。


やったやつは大体見当ついてるんですが、たぶんどうにもならないです。
私に出来ることは、そういうことをするごろつき共から家族を守ることだけです。
だけどいまは、誰でもいいんでそれっぽい奴を殴りたいです。
誰でもいいから連れてこいや、と思います。


ドアに穴を開けられる拳、普段は人に当てたことがなくてよかったんですが、
今日はこの拳を人に当てたことがないのがとても残念です。


やったやつに言いたいことはたくさんありますが、
どう非難したって、あいつに生きる権利があったのと同様に、
あいつを殺した誰かにもまだ生きる権利があるんだと思います。

そう思うことができて、ほんとに良かったと思います。


だけど、いまは、そのことが何よりも辛いです。


残された老犬が、外でずっと鳴いてます。
自分より若い犬を事故で無くすのは二度目なんです。
老犬は、あいつが死んだのをわかってます。
私は、二度とも同じ奴らがやったかもしれないのを、知ってます。

しばらくの間、私は老犬と一緒に過ごそうと思います。
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