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この物語はフィクションです27

5月17日


出発前日の波乱、長い夜。
明日から5日間休暇をとった。
最終便で、本当の友人と本当の恋人のもとへ発つ。
そこで私は昨日から、偽りの恋人について進退を決めるべきか、
どうしたものか、しないものか、とずっと悩んでいたのだが。
夜半を過ぎた頃、“偽り”の方から電話が入った。

彼女は相変わらずだった。

自らが恋人としてどう振舞うべきかを悩み、
自分のことに滅法自信がなく、この上なく迷い、
そして自分が決めたのでない価値観に振り回されていた。
私と付き合い始めてからほとんど何も変わっていない。
水を注いでも注いでも、彼女は砂漠のように乾いている。


私は彼女の変わらぬ様子に悩んだ。
私がやろうとしていることや、いままでやってきたことは、
果たして意味があるのだろうか、ありうるのだろうか。
・・・間違っていたのだろうか。
少なくとも、このままでは埒が明かないのではないか。

彼女の言葉。

「ありがとう」「ごめんね」「好きだよ」「私でいいの?」
すべてが私を求めている。
与える言葉ではない。
私を嫌わないで、こんな私だけど、どうせ私なんか、
のうちのどれかが括弧書きで語尾に隠れているのだ。

しかもふたりきりになってしまえば、こちらが甘える隙など一瞬たりとも無い。
寄りかかられ、すり寄られ、腕を組まれ・・・
彼女はどこに行っても、何をしても、私しか見ていない。
そのため私は私しか見ない彼女に気を配って、
引きずるかのように、導くかのように、配慮して慎重に歩かねばならない。
きわめてアナログな、直接の人力で動く、移動式・心のマイホームだ。
どうやらこの心身は明らかに消耗していて、
これ以上長く保たせるのは難しいように思えたし、
彼女にもその焦りは伝わってしまっているようだった。
私は己の小ささを思い知った。


「ねえ・・・・やっぱり、別れよう」
「どうして?」
「私がいまのままだったら、あなたのためにならないから」
「どうして?」
「・・・こんな私じゃあ、あなたが何のために付き合ってるのかわからないよ」
「あのさ、何のためにって、そんな目的意識があったのかい?」
「私、あなたに何もしてあげられないから・・・こんな風に付き合うなんて、恋人じゃない」
「それは誰が決めたんだ? 恋人はこういうものだって、誰かに教えられたのか?」
「わからないけど・・・私なんかきっと駄目だよ、別れよう」

蚊の鳴くような声でこんなことを言われた日には・・・・
さすがに腹が立ってきた。
好きなくせに、彼女は自分に自信がないせいで別れるのか。
しかも私のせいにして別れるつもりなのか。
そのうえ自分は今後変わる見込みがないと、いま決めてかかるのか。
そこまで言うなら、もうどうにでもなってしまえ。

「あのさあ、俺のためになることだって、確実にわかる方法でもあんの?」
「そりゃあ、無いけど・・・」
「こんな私でいいの?って言われて、そのたびに応えれば安心するのか?」
「・・・・・・・・ううん」
「いつまで言ってりゃいいんだよ?」
「・・・・・・・わからない」
「ずっとこうなら俺だって別れたいね、そうと決まってるならいますぐにでも」

怒りがふつふつと湧きあがるのを感じた。
心のどこかで悲鳴をあげる哀しみと、後悔の念も。
私は思いのたけをぶちまけた。


きっと私は間違っていたのだ。
しおれた花に水をやるように、彼女のこともどうにかできるものと驕っていた。
足りないものには、まず与えていれば必ずどうにかなる。
徐々に回復し、平行して自己治癒力を高める何かをすればいい、と。
そして私が持っているものは、いくら与えても減らないものと思い込んでいた。
彼女の求めるものは私だけで、そこに彼女のすべてがかかっていたとしても、
それを私ひとりで与えきれるものと思っていた。
しかし減らないものは部分であり、全体ではなかったのだ。
そうして自らを過信した私は愚かにも疲れ果て、消耗している。

結局私は、見せる必要のないものを見せようとした。
知る必要のないことを教えようとした。
自分が正しいと思うものを押し付けようとして、失敗した。
倒れた花は、倒れたなりに実をつけるものだ。
それを見て勝手に心を痛め、まして起こしてやろうなどと・・・
これほど傲慢なことはないだろう!

「だから俺・・・君に悪いことした、俺は間違っていたんだ」
「ううん、あなたは何も悪くないよ」
「いいや、俺がしようとしたことは、君には必要のないことだったんだ」
「違うよ、悪いのは私のほう・・・あなたの努力に応えられなかったから」

もう駄目だ。
いちいち勘に障るんだよ、その腰の低さも自信のなさも。
それにいったいなんだってんだ、この陳腐な展開は。
もう我慢がならない。
そんなに駄目な自分が好きなら言ってやるよ、本当のことを。

お前が「好きになるのが早すぎる」って言われてふられたのは、
お前があまりにも愛されたいからだ。
手が届きそうだから欲しくなる!
どうせ俺のこともそうなんだろう?
理由なんか知らねぇよ。
気がついたらお前は、誰かに愛されることを諦めていたんだ。
馬鹿野郎、愛されたくない人間なんかいねぇんだよ!
それで済むふりしても、よく見てみろ全部溜まってんだろうが!

それに、お前は期待されるのが嫌いなんじゃない。
自分に期待するのが嫌いなんだ。
だから自分じゃなくて、他の誰かが期待しないようなことを、
わざわざ選んで、選んでしてるんだ!
それで「あなたはいいの?」じゃねぇんだよ!
いつまでやってりゃいいんだ、まったく先が見えてこないんだよ!
そんなもん、とっとと自分に訊けよ!
全部他人のせいにすんな!

「あなたって、私以上に私のことよくわかってるんだね」
「どうせ全部当たってたんだろ」
「ううん、いっこだけ間違ってることがある」
「なに?」
「私があなたを好きなのは、愛してくれそうだからじゃない」
「ああ、そう」

ぶっちゃけ、もうどっちでもいいよ。

「なんでそんなに私のことがわかるの?」
「知らん、知らんが君のことは他の人よりよく“見える”」
「そんなにわかりやすい?」
「ああ、黄色い花見て“黄色い花だ”と思うくらい」

「ねぇ・・・もう一回だけ、チャンスをちょうだい」
「・・・いいよ、どうぞ」
「こんなに私のこと見てくれるの、あなたしかいないもん」
「まず、そんなのがいただけでもおかしいな」
「私・・・あなただったら、何見られてもいいなって思う」
「べつに・・・チャンスをくれっていうならやるよ、いくらでも」

私はやや自暴自棄に陥っていたが・・・
これでまた駄目なら、とっとと別れてしまえばいい。
そして、もう二度と同じ過ちを犯さぬようにすればいい。
あとは彼女の問題だ。

やれるもんならやってみろ、弱虫が。

私はここにいるぞ―
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