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この物語はフィクションです16

4月11日


ダブルブッキングの危機。
「今から焦ったってどうしようもねぇな」
と思いつつ、私は少し焦っていた。
さしあたり片付けるべき仕事があったので、
出来るだけ早く終わらせようと、早速作業にとりかかる。
今日中に配達納品する商品をそろえておく仕事だ。

あれと、これと、それと・・・あとひとつ。

正午を過ぎたあたりで、作業がほぼ完了した。
あとはまとめてチェックして、納品書を書けば・・・

と思ったところで、店舗に来客があった。

客は、来店してすぐに買い物をしだした。
応対して注文を受けた部下が、いそいそと商品をそろえ始める。
その間、私は店の奥で作業を続けていた。
自分の来客ではないかと訝ったが、何も言われないところを見ると・・・
どうも私に用がある人ではないらしい。
なんだ、普通のお客さんか・・・

「あれ・・・? 今のお客さん、主任のお客さんじゃないんですか?」
「えっ? お客さんに何か言われたんですか?」
「いや、別に何も・・・・S市でここの商品を扱わせていただいている者ですが、って言ってましたけど」
「それ“別に何も”じゃないでしょう、もお・・・」
「えっ、やっぱりあの人、主任のお客さんだったの?」
「そうだと思います、たぶん―」

私は急いでその客のもとに向かった。
そこにいたのは、40代くらいの男性。
年恰好からして、私の客であるK氏はこの人に違いない。
面識は無かったが相手も似たようなことを思ったらしく、名刺を差し出してきた。

「どうも、はじめまして・・・×××のKと申します」
「はじめまして・・・Oと申します、いつもお世話になっております」

とりあえず挨拶してみたが、K氏はなにやら急いでいる様子だった。
そこで帰りの特急の時刻を訊いたところ・・・発車が約一時間後!
とくに綿密な計画を立てて来たわけではなさそうだ。
世間話もほどほどに、「また日を改めて来ます」と言い残したK氏は、
嵐のように去っていった・・・・・・・・・

ともあれ、これでダブルブッキングの危機は回避できた。
あとは残りの仕事を片付けながら、H氏を待つのみ。
K氏が帰ったあと部下とふたりで昼食を済ませ、次の作業をすすめていると・・・

来たぞ、H氏だ。


ああ・・・来たか。
悪いが、今日は早く帰すつもりはない。
相手が悪かったと思って諦めてくれ・・・


「・・・・・どうも、こんにちは」
「こんにちは、Hさん・・・お待ちしておりました」

私は自分の心持ちを抑圧から解き、真っ直ぐに彼を見据えた。
彼もすぐに、いつもとは違う様子に気付いたようだった。
私はとりあえず彼を奥の席に座らせて、自分の煙草と灰皿を用意し・・・
それぞれが席に着くと、部下がさりげなくコーヒーを淹れてきてくれた。
・・・ありがとう、恩に着るよ。
私は小さく深呼吸し、煙草に火をつけた。

「煙草・・・・喫うんすか?」
「・・・・ええ」
「へえ、そうなんだ・・・」
「はい・・・」
「・・・で、今日は何の御用でしょう?」
「ええと、そうですね・・・・さて」

先日、私が彼の意見を言うためのダシに使われたこと。
どういうつもりがあったのか、まずそこを訊いておかなくては。

「Hさん、先日の会合での“あれ” ・・・私を、使ったでしょう?」
「えっ・・・いやいや、それは・・・あんなことになったのは想定外で」

彼はどうも、私が会合での発表者に選ばれたときのことを言っているらしい。
それで私が怒っているものと勘違いしているようだ。
違う、そうじゃない・・・
皆の前で、私に意見を言うように仕向けたのはどういうつもりだったのか、
私はそのことを訊いているのだ・・・・

「いいえ、違います・・・私は議題がすっかり片付いた後のことを訊いているんです」
「あっ・・・そのことですか」
「あのとき、私に意見を言わせたのはどういうつもりですか」
「いや、それは・・・」

ふん、シラを切るか・・・・
それなら問いただして差し上げよう。

・・・手加減無しでな。

「・・・あの日帰宅してから、会合の資料を読み直させていただいたんですが」
「資料・・・? ああ、配布したプリントのことですか」
「会合の参加者一覧がありましたよね」
「参加者一覧、っていうと、あれですね・・・」
「あの一覧は、出欠票を出した方の名前が載ってるんですよね」
「はい、一応・・・出席する予定の方の名前を書かせていただきました」
「欠席されたのは、たしか×さんと△さん・・・どちらも若手を抱えていらっしゃる方ですよね?」
「ああ、そう・・・ですね・・・」

まだ吐かないのか・・・

「×さんと△さんは、急な欠席だったんですか」
「ええ、お二方とも急用だということで」
「それが判明したのは、いつですか・・・」
「あのう、会合の直前になってから連絡が入りまして・・・」
「欠席された方が参加者一覧に載っていたのは、やはりそういうことだったんですね」
「はい・・・」

・・・・そうか、自白する気がないのだな。

「・・・・もし、あの日欠席されたおふたりが、予定通りに出席していたなら・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「私が意見を言うことにも、それなりの効果が期待できたはずです・・・そう思いませんか」
「それは・・・・・・・・・・・」
「ねえ、Hさん・・・」
「・・・・・・はい」
「あなた、私を使ったでしょう」
「・・・・・・・・・・すみませんでした」

よろしい。
だが、言い訳は許さん。

「ですが、それは・・・・」
「いいえ、Hさん」
「・・・はい」
「私は、使われたことで怒っているんじゃありません」
「・・・・・・・・・・?」
「あの日、参加者の中に若手を抱えている人は一人しかいなかった」
「はい、そうです・・・」
「したがって、あの場で私が意見を言ってもさほど効果は無いでしょう」
「そうかも、しれませんが・・・・・・・・・」
「私が一番腹立つのは、そこなんですよ・・・」
「・・・・・・・?」

私は視線を緩めず、全開でH氏を見据えた。

「私を使うなら、もっと効果的に使いやがれ」
「・・・・・・・・!」

H氏は顔を上げ、驚いた顔で私を見た。
その顔が少しずつ、真摯に変わる・・・・
ふん、なかなかいい顔してるじゃねぇか。
いつもそうして居ればいいものを。


「すみません、あなたを・・・・・・・見くびっておりました」
「べつにいいです、早速今日は腹を割って・・・」
「はい」
「いや、かっさばいて頂くまで・・・・・・帰しませんよ」
「わかりました、何でも言ってください」


そら、つかまえた―
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