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この物語はフィクションです13

4月7日


午前中、本当に出席確認の電話がかかってきた。
昨晩と同じくらい念を押した内容の電話。
どう考えても、これはしつこい。
月に一度は顔を出しにくる所といい・・・
あの若者、通例では考えられない程度にしつこい。
良く言えば粘り強い、ということにもなるのだろうが、
社長の方も、彼の粘り強さには幾分辟易しているようだった。

「あれからまた、電話きたのか?」
「ああ、きましたよ・・・ありゃあしつこいですね・・・・」
「あいつ暇だなあ」
「良く言えば粘り強いってことでしょうけど・・・」
「そこがあいつの長所でもあり・・・まあなんだ、短所だな」
「はあ・・・意外ととんでもないものに捕まったかもしれません・・・」


夕方になり、私は早めに帰宅した。
早々に身支度を整え、まずは私室で待機。
煙草、煙草、ガム、煙草・・・
会合の30分前、おんぼろの軽トラックに乗って自宅をあとにした。

20分ほどで到着した会場は、前回と同じコテージ。
玄関のなかでは外回りの若者が、
ホテルのボーイよろしく姿勢を正して待ち構えていた。
このやろう、しつこく呼びやがってからに・・・
私は拳を握り締め、彼をにらみつけた。

「こんばんは・・・どうも、お待ちしておりました」
「 こ ん ば ん は ・・・・・・ッ!」
「・・・えっ? 何スか?・・・・はい?」

対応が、いかにもわざとらしい。
若者は「何スか?」のところで気の抜けた顔をし、
大仰に頭へ手をやりながら、いやらしくにやついた。
なのに抑揚と発声だけは営業モード。
慇懃無礼ってのは、こういうことだろうな・・・

「・・・・・かっ ・・・・・・・・!」
「ささ、どうぞお入りになってください」

彼は壁際に寄って頭を下げながら、
控えめにドアを示して私に入室を促した。
いやに丁寧だ・・・・ああ、腹が立つ。
目の前の若者をひとしきりにらんでから、私は会合の席についた。

・・・?

そういえば、テーブルが前回よりも狭い。
今回の参加者は前回に比べて随分少なく、
主催側であるあの若者を合わせても全部でたったの6人。
会合の議題は、今年度の活動計画と会合役員の選出。
参加人数が少なかったのは、この議題のせいかもしれなかった。

会合の方は、滞りなく進行した。
この地域の会合の長たる名士が急用で欠席したものの、
前回出席していなかった幹事長なる人物が、
所々脱線しながらも手際よく議題を片付けていったのだ。
この幹事長は・・・40代半ばといったところか。
主要メンバーの殆どが還暦前後の人々なので、ひときわ若く見えた。


活動予定表に入れる事項が固まったあたりで、
話し合いは「21世紀の展望」だとかいうものを発表するメンバーの選出に移った。
個々の参加者の企業成果と、今後を見据えたその他もろもろのことを話すらしい。
どうも、今回の出席者5人の中から3人が指名されるようだ。
だが役員や意見発表などで、自分が選ばれるわけがない・・・
私は他人事のように話し合いを見守っていた。

・・・・・・そのとき、幹事長が驚くべきことを口にする。

「―じゃあ、2回目の発表はそこの若手の方に・・・」
「ぶフぉーー!」

私はあまりのことに吹いた。
幹事長は何を思ったか、突然私を指名したのだ。
本気か、やる気あんのか、幹事長さんよ。

外回りの若者が、私の反応を見て笑っている。
おいこら、お前・・・・・主催側だろ。
それに幹事長も幹事長だ。
適当に指名されたんじゃたまらない。
・・・が、周囲の顔を見ると、断れそうにない。
人数が少なく、気さくな雰囲気だったのが裏目に出たようだ。


「ちょ ・・・ま まあご指示であれば私はやりますが・・・」
「・・・・うんうん、たまには若手にやってもらいたいし」
「ですが私は、ご覧の通りの若輩ですので、至らない点も・・・」
「くふふふ・・・・くっ・・・」

私と幹事長のやりとりを見守る外回りの若者が、
腹を抱えそうになるのを我慢しながら、ひたすら笑い続けている。

「ああ、そんなの適当に勉強してくればいいよ、ちゃんと聞いてあげるから」
「私でいいんでしたら・・・・ま まあ、やってみますけど」
「よし、決まりだ」
「あはははははは」

・・・・・・ってそこの主催側!
さっきから笑いすぎだろお前!!!!!

「ちょっとHさん! さっきから笑い過ぎですよ! ほんとに失礼ですねもぉー」
「いやいやいや、そんな滅相もない」
「まあまあまあ・・・・」

結局、私は発表者として半年後に何か喋る羽目になった。
くそっ、あいつ、いいだけ笑いやがって・・・・
後できっちり落とし前をつけてもらおうか。


会議はその後も、順調に・・・・進行した。
私は始終黙っていたが、聞き漏らさぬよう注視して皆の話を聞いていた。
やはり、面白い。
ここで話されていることは、非常に意義のあることだ。
即時的でも即物的でもないが、企業理念というやつは必ず役に立つ。
ここの人々は皆その重要さを知った上で、
意見と情報を交換するべく熱心に話し合っている。
私が思うに、それは伸び悩む企業とそうでない企業との決定的な違いを示しているのだ。
そして若手としての観点からも、この会合に参加する意義は大きく分けて2つあり・・・

それについてはおいおい、もっと考えて整理しておこう。



会場に到着してから、はや数時間。
会合は終了の予定時間を30分ほどオーバーして、締めに移るところだった。
終わったか・・・・と、思ったそのとき。
今度は外回りの若者が口を開いた。

「ところで、そこの若手の方から何かご意見があるようなんですが」
「・・・・・・・・・・・!」

彼は丁度よく静かになったところを見計らって、私に話をふった。
このやろう、まだ食い下がるか。
「もっとたくさんの若手に参加してほしい」との意見をいま言え、と。
しかし、今回は参加人数が少ないうえ、若手を抱える参加者が1人しかいない。
いまここで意見を言ったところで、効果は薄いだろうが・・・・
私は仕方なく「若手を積極的に参加させていただきたいのですが」、
と幹事長に伝え、ついでにその場の勢いで頭を下げた。

「―ということで、宜しくお願いします」
「こちらからも、是非お願いします」

ちらっと横を見ると、外回りの若者も私と一緒になって頭を下げている。
お前いま、どう考えても・・・この私を、ダシに使ったよな?
やはり彼は、そのためにこそ私を呼んだのだ。
主催側にいる彼は、おそらく人と情報を集めることだけが仕事なので、
立場上、自分の口から意見を言うわけにはいかず・・・私を使うことにしたのだろう。

私は心の中で拳をバキボキ鳴らした。

何考えてんだか知らねぇが、テメエ覚えとけよ・・・・
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