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この物語はフィクションです11

3月23日


あの外回りの若者が、今日も来た。
彼は次に行われる会合の日程連絡と、
その出欠票を配るために来たようだった。
私は早速その説明を受けた。
そのとき前回出席した会合の感想も、やはり訊かれた。

「先日の会合に出てみて、いかがでした?」
「非常に勉強になりました、ありがとうございます」
「いやぁ、本当ですか・・・それはよかった」

彼は本当に喜んでいるようだった。
どうせ好きで今の仕事をしているんだろう。
また今度来たときに、商品のサンプルでも持って帰って貰おうか。
そう思って話していると、話題は知らず知らずのうちに、
前回の会合のメンバーと今後の代替わりの話に移っていった。
最古参、パイオニアの名に相応しい、ひと癖もふた癖もあるあの人々。
彼らもいずれは後代に席を譲らねばならない。

「さすがに皆さんパイオニアですね、キャラが濃いのもそうですが・・・」
「ははは、そうでしょう」
「あの方々は普通みられるのとは違う動機を、強く持っているのでは?」
「・・・ええ、他の地域とはちょっと違いますね」
「経営のことももちろんそうですが、良いものを造ろう、とか面白いことをしよう、とか・・・」

「そういう動機が根底にあったからこそ、ここまで諦めずに頑張ってこれた方達なんでしょう」
「そうですね、普通の経営者の人たちや他地域の会合とは、そこが大分違っていると思います」
「ですから多分、そういう動機を共有できる人でなければ、彼らとは話が通じないんじゃないですか?」
「まあ・・・いろいろな人がいますが、参加者は減ることもあれば、増えることもあります」
「次代にあの動機を受け継ぐことが出来るかどうか、というのが心配なんですよ」
「心配することもないと思いますよ、とにかく今は若い人達に少しでも参加していただければ・・・」


私は結構・・・いや、かなり心配している。
おそらくこの地域の会合に特有のものであろうが、
ああいった動機の共有から来る意見交換のパワーのようなものが、
あのメンバーたちを確実に「別格」たらしめているのだ。
そしてその力を永く引き継いでこそ、我々の理想はまさに実現可能なものとなる。
すなわち、職人と造り手の聖地、人の心に潤いを与えるサンクチュアリ。

それを後代に引き継げるのであれば良いと思ってはいるが、
それぞれが企業家としてより重いものを背負うようになったいま。
先ず企業の担い手として期待される若手たちが、
コスト度外視も辞さないような理念を持って育つような環境にあるかどうか。
私はそのことを外回りの若者に話したのだが・・・


「悪いことばかりじゃないですよ、新規参加もありますし・・・」
「動機がばらばらになり、皆が烏合の衆になってしまう事が、私は一番恐ろしいんです」
「そう悲観したものでも・・・あなたの様な若手が参加してくれているわけですし、そういう方が増えてくれば・・・」

ん? それはまさか・・・・

「あなたは前回の会合でも非常に評判が良かったですよ、周りの方から」
「まさか、私に期待している・・・とかじゃないですよね?」
「いえいえ、Kさんなども・・・さすがOさんの所は他とは違うね、と仰ってました」
「・・・・ハァ!? なぜそんなことに・・・」
「やっぱり話の聞き方とかでわかるんじゃないですかねぇ」

しまった、やられた。
こんなことなら思い切り斜に構えておくべきだった。
もちろんそんな余裕などどこにもなかったが、
やはりあのときの自分の姿勢が悔やまれてならなかった。

「いやあ、そんな、困りますよ・・・・・」
「そんなこと言わずに、次回も是非参加してください」
「たしかに勉強になりますが、そういった地域的な期待を私の肩に掛けられても・・・」

困った。
それは、それは非常に困る。
どうにかしてここを・・・

「私だけじゃなくて、他にも若手はいたでしょう?××さんとこの若手とか・・・」
あそこの方はあくまで従業員ですから、やはり立場的にはあなたの様な担い手の方が・・・」
「じゃあ他の方も、私みたいなのを連れてくればいいじゃないですか」
「それならそうと、あなたが会合の場で言ってくださいよ」
「それならまあ、どこかに有望な若手がいれば・・・」

・・・・・こいつ。
他でもない、この私を使うというのか。
ミイラ取りがミイラになってたまるか。
ちくしょう、誰かを巻き添えにしたくなってきた。
そうだ、彼だ、彼のことを思い切り宣伝してやろう。
私のついでだ、どうせならその方が気が晴れる。

「・・・・・・あ、そういえばいましたよ、有望な若手」
「へえ、誰ですか?」
「・・・N村の××さんの息子さんですよ、あの方は非常に良いですね」
「ああ、たしかその人は若手後継者の会にも出ておられましたね」
「あの方は本当に良いと思いますよ、私はとても期待しています」
「じゃあ、あなたも後継者の会に出席してみたら・・・」

・・・・・・誰が出るか、ばかやろう。

本当に抜け目がない。
私は彼を見くびっていたようだ。
これは失態だ。

「いや、もうそこまでは面倒臭いから嫌ですよ・・・ただ、あの人はマークしておいた方が」
「そうですか、へぇ・・・覚えておきます」


へへへ・・・・ざまあみろ。
これでひとり、巻き添えにしてやった。

まあ巻き添えということだから・・・
次回の会合にも、また出席することにしよう。
うまくいけばもっとたくさんの若手を巻き添えにしてやれる。


・・・・・・・ん?

これでは外回りの若造の思うツボか???
あいつめ、せいぜい4~5歳しか歳が違わぬと思っていたが。
・・・やれやれ。
何かしら不遜な気もするが、やるだけやってみようじゃないか。
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