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この物語はフィクションです4

2月26日


長い長い、運命の一日。
研修先の所長は、結局捕まえることが出来ず。
そのため会合の予定時間まで悶々と過ごす羽目になった。
食欲がなく、その一方で煙草はどんどん減っていった。
考え事が次々とあらわれ、頭の中を騒々しく駆け巡っては消える。

さて、私は会合で何をすべきなのか・・・

気になることはひとつ。
我々の連携企画が烏合の衆と化してしまうのは、なぜか。
我々の内部然り、我々と地元との間も然り。
その原因であろうモラルの違いを、考え方の違いを、この目で確かめなくては。
大体の事は知っているし、実情をある程度掴んでいる自覚はあったのだが、
やはり会合のメンバーを実際に目で見て、その人となりも併せて掴んでおきたい。
そうだ、私は勉強をしに行くのだ。

会合の30分前、私は粗末な車に乗って会場へ向かった。


会場には、私と同じ新参者の顔がいくつかあった。
あの外回りの若者も来ていたのだが、それより・・・
どうも、古参の人々の顔が固い。
いつもと何かが違う。
会合が私のいる会社で行われた際、これまで何度かその様子を拝見していたのだが、
何か・・・今日は、人々の構えが違うようだった。
手は抜けない、必ずやらなくてはいけないことがある、そういう雰囲気だ。

会合の場には、首長をはじめ、上層の役人などが数名来ていた。
そういえば今回は、参加者がいつもより多い。
話を聞くうちに、それが相当にイレギュラーな事態であるらしいことがわかってきた。

・・・・・・・・これか。


今回の会合の議題は、正直言って、かなり難しい。
広い区間内を仕切る大きな役所に、新しい条例を設ける、というものだった。
集まったメンバーで、その最終調整としての吟味をするというわけだ。
私は手渡された資料を懸命に読んで、議題の概要を必死に掴もうとしたのだが、
条例の内容そのものの他にわかったことは、
彼らが実効性のある条例のために何ができるのかを、
それこそ一生懸命に尽力し検討しているようだ、ということだけだった。

出来るだけ周囲の反応を探る。

・・・・モラルや考え方の違いは、見たところ3種類あるようだ。

1つは、発展途上の企業家。
この人々は、まず自分の会社を安定させなければならない。
ゆえにリスクを恐れる。
メンバーの中で最も腰が重いのは、この人々のようだった。

2つ目は、地元とのコネクションが強い管理職。
身近の反発や何がしかの軋轢に対し、配慮しなければならない。
そうしたリアルタイムでの案件に対し、すぐに出来る対処を考える。
言うなれば場当たり、「いま」すべきことは何であるかが最も重要なのだ。
長期的な視点に立った今回の会合の議題をよそに、
彼らが少しだけ別のことを考えている様子が垣間見えた。

3つ目は、有力な企業家と上層部の役人。
彼らの理念は、非常に似通っている。
互いの理想は企業個人や役人の利益だけに終わるものではないが、
その目的と実効性について広く一般の理解を得るためにはどうすればよいか。
そのことが彼らにとって共通の、深刻な課題だった。
内部では互いに似たような軋轢を抱えているため、
連携することへの意欲は高く、リスクに対しての覚悟もある程度は出来ている。

・・・・・・・そうか。

この考え方の違いが前面に出たとき、我々は烏合の衆と化す。
だがメンバーの人となりを見るにつけ、また今後の夢について語りあうのを聞き、
最終的に彼らの目的とするところは殆ど同じである、ということは明確にわかった。
せめて聞き漏らすまいと、様々な発言に全力で耳を傾ける。

結局メンバーとゲストは強力な意思疎通を果たし、
会合は大成功に終わったようだった。
あまり実感が持てないが・・・・
この私の目の前で、何かの歴史が動いたことは間違いなさそうだった。

メンバーの人となりについても、とくに懸念すべきことはない。
人は誰しも完璧でないがゆえ。
少なくとも、悪い人はいない・・・・・それで十分ではないか。


私に出来ることは、やはり・・・

地元で売れる単価の低い商品を開発すること、か。
さしあたり軋轢を緩和するためには、
原因となっているであろうこの不景気を緩和すべきだろう。


会合が終わり、ゲスト全員とメンバーの半分ほどが撤退した。

まずは、うちの会社にたびたび顔を出している名士に捕まった。
すぐに帰れるわけがない。
それは前もってわかっていたので、私は彼と世間話をはじめた。
どうも彼は、今後の展望については人となりがものを言う、と言いたいようだった。
そして、うちの社長に幾分心酔しているようだが・・・・
言われてみればそうか、と思うこともあった。
私の少ない経験から言っても共感できる点が多々あった。
夢を持ちすぎるのもいけない、と分かっていても、やはり持つべきだと。
事業として成り立つものを探すために手段を選ぶのでなく、
手段が先にあるから、それを事業として成り立たせるために皆四苦八苦しているのだ。
それなら私もよくわかっている。

よくある説教か・・・・・?

いや、違うようだ。
私に入れ知恵でもするつもりなのかとも思ったが、どうも少し違う。
彼は自分の経験と考え方について話し・・・・
私に期待している、のか。

・・・・・やれやれ。


それからしばらくして、さらに数名が撤退した。
今度は別の二人の名士と、そして私を含めた新顔四人とでの座談会となった。
酒を飲みながらとめどなく、ひたすらに好きなことを喋る名士二人。
それにはいささか閉口したが、得たものは多い。
二人の話から、今回の会合の意図と立ちはだかる現状について、
より詳細に掴むことができたのだ。
そして何よりも・・・・彼らには、強い意欲がある。
少しばかり口調が激しくなってしまうこともあるが、
それもこれも、すべてはその意欲によるものだということが、はっきりとしたのだ。
何につけても、私にはそれで十分だった。


夜半頃、その座談会もお開きとなった。

帰ろうとしたところ、私は最後の名士に捕まった。
会合が行われた場所のオーナーだ。
白髪で小柄の、快活極まりない御老人。
酒が入っているせいもあってか、いつも以上に饒舌だった。
彼にはまだまだたくさん、大きな夢があるようだった。
最年長とあって経験も豊富、つまり厳しい事態に何度も直面しながら、
それこそ夢のような話だが・・・大きな夢の一つ一つを実現し、着実に支持を得ていったのだ。
御老人は、上機嫌でそのことについて語り続けた。
そのとき私は、いつになくあたたかい心持ちだった。
語り続けるその肩を、優しく叩いてやりたくなった。

そこで御老人が、ふと煙草を取り出す。
この際だ、私もここで言いたいことを言ってしまおうか。
あいにくと先程の座談会で、煙草を切らしてしまったのだが・・・

「すみません、私にも一本、いただけますか」
「ああ・・・いいよいいよ、まあ・・・ほら、座んなさい」
「どうも・・・失礼します」

御老人は煙草に火を点けてくれた。
肺の中に、煙とともに万感が充ちた。

私は言いたいことを言った。


地元との軋轢は厳しい。
どんなに連携しようとも、その軋轢が元で効果どころか逆効果になってしまう。
それもこれも、私が思うに不景気のせいだ。
厳しい現状にあるからこそ我々に対して冷たくなっていく人々を、
見限ることなど私には出来ない。
会社や私が現在の仕事に尽くすことが出来るのも、他人の協力があったからこそ。
だからこそ・・・・・・・他ならぬ地元へ、その還元を。
しかし良いものを作っただけでは、地元では到底受け容れられない。
まずは反感を乗り越えて売れる商品を、安い商品を作らなくては。
相互理解を生むためには、どうしてもそうする必要がある。
すぐには理解が得られずとも、出来る限りの譲歩を。

だからそのための御助言をいただけないか、と申し出るつもりで話した。


「ほほう・・・そんなことがあったのかね・・・」
「ええ・・・ですが、私には見限ることなど・・・出来ません」
「まあ、足の引っ張り合いっての? 首長も言ってたけど・・・俺にゃあ、そういうの、よくわかんねぇな」
「・・・・・・・はあ・・・」

御老人は、一体何が言いたいんだろう。
ずっと聞いていても、そのものをずばりと言ってくれない。
「ああいう地元向けってのは、他もやってるが・・・あくまでそりゃあ商業手段さね」
ということは・・・・
「まあ辛いからってのもあるんだろうが、人の不幸は蜜の味、ってのも・・・やっぱりあってな」
そうか、つまり・・・
「まずはさ、俺らが自分のやり方でやるのさ・・・それからやっと、周りの話がついてくるんだぁな」
ああ、そうだ、そういうことだ。
「そんなこと気にしてたら・・・長くもたんよ、精神労働が多すぎるもんなァ」
わかったぞ。


「つまり ・・・足を引っ張られているという自覚を無くせ、ということですね」
「ああ、まあまあ・・・・・そういうことさね」
「相互理解のために工夫しても、何も変わりませんか」
「ああ、そこだよ、そこさなあ・・・」
「というか譲歩しているという自覚もそこから来るんですね」
「ははは、なあ・・・・」
「わかりました ・・・やっとわかりましたよ」

そういえば名士の中に、地元だの他所だのの区別は要らない、と言っている人がいた。
そういうことだったのか。
それならば私は、ただひたすらに良いものを作ればいいのだ。

これで一介の職人に戻れる。


「・・・ありがとうございます、やっと肩の荷が下りました」
「ええ、そうなのかい?」
「そうです、ここのところ、地元で売れる商品を作るにはどうすればよいか、そればかり考えていて・・・」
「ああ・・・・そんなものは駄目だ駄目だ、まず良いもん作らなきゃあな」
「やっと楽になりました ・・・これで、安心して良いものが作れます」
「本当かね、ああ・・・そりゃあ、そりゃあ良かった」
「・・・・・・・・ありがとうございます」
私は御老人に、深く頭を下げた。
「まァた、かわいいこと言ってからに・・・・」
御老人は、そう言って私の頭を撫でた。

「じゃあ、そろそろ帰ります・・・でも、今日の話は内緒に」
「そりゃあお互い様さあ・・・じゃあまた、そのうちね」

私は御老人に何度もお礼を言って、帰宅した。

時間は1時半をまわっていたが、目がすこぶる冴え、気分はこの上なく上々だった。


Jesus、今夜は月が綺麗だ。
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