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この物語はフィクションです

2月23日


ここのところ、きびしい。

今年の不景気さ加減は、私が会社に勤めはじめてから最も深刻だ。
今のところ会社自体の進退にかかわるほどでないにしても、あまりにひどい。
それにもかかわらず、私が採ることのできる手段は少ない。

単価の低い商品の開発や新しい売り先の模索については、
できないこともなく、手段も見つかっていないわけではないが・・・
それはやはり、最後の手段としてとっておくべきか。

今それをせずにおくとすれば・・・
私に出来るのは、地道な個人単位・顧客向けの宣伝活動か、
あるいは身近な若手の啓蒙。
でなければ、この機を生かして私自身が精進するしかない。


・・・身近な若手。

企業家団体の、外回りをしている若者をみつけてある。
彼は経営・販促の勉強会や消費拡大のための活動を行う、
その橋渡しとしての仕事をしているようだ。
歳も私と4つか5つほどしか違わない。
以前から目をつけ、ことあるごとに世間話程度の会話をするようにしてはいたが。

今日、ある会合への参加申込書を持ってきた彼を、
私はとうとう捕まえることにした。

どうも、彼には素養があるようだ。
他人事としてあの仕事をしている、ようには見えない。
人を見る目だけは自信がある。
少なくとも的外れではないはず・・・私が油断さえしていなければ。
若手である以上、なるべく早い段階で腹を割って話が出来るようにしておきたかった。

さっそく、彼と地元の現状について話をした。


さすがにはじめから本音は出てこないようだった。
若手すなわち鉄砲玉だろうから、せめて分をわきまえるよう気をつけているのかもしれない。
しかし彼から本音を引き出すのには、さほど苦労しなかった。
私みずから、ずばり本当のことを指摘すればよかったのだ。
実に単純なこと・・・この厳しい現状について、包み隠さず正確に。

「それでは、“地元を見限るのか”という偏見に応えることになってしまいます」
「まったくもって、そうです・・・この不景気がより一層の格差や軋轢につながる」
「ですから地元との連携などと言っても、今のままでは、正直無理だとしか言えませんね」
「やはり外向けにモノを出していった方が、ということで、実際そうするところは増えています・・・××さんのように」
「ただ、あの偏見を取り除くことさえ出来ればいくらかは ・・・しかしこんな状態では、皆自分のことで手一杯で」
「ええ、いろいろ活動してはいますが、人が集まらないのはそのせいかと―」

彼よりも私の方が若かった、ということも幸いしたのだろう。
いずれにせよ、今日彼と話をすることができてよかった。
現状についての認識は、彼と私とで殆ど同じだと言ってよい。
私のような立場にある者から、本音を聞く機会がたくさんあれば、あるいはもっと・・・

橋渡し。

つまり、私よりも広く啓蒙的な活動を行うことの出来る立場に、彼はいる。
今は私同様に・・・無力同然であろうし、
手段がないこと自体もすぐにどうにか出来ることではないが。
おそらく彼ならば、自分の力を蓄えるぐらいの努力はするはずだ。
それ以外に出来ることは何もないのだから・・・

会合への出欠票を置いて、彼は私のいる会社をあとにした。


さて次は、その会合への出欠。

昼過ぎ、出勤してきた社長に訊いたが、どうも彼は出たくないようだった。
理由は「面倒くさいから」、それも仕方がないことかもしれない。
誰が集まったところで、どうせ我々に出来ることはない。
地元の偏見に応えるような真似をし、せっかくの会合を愚痴のはけ口にするぐらいしか・・・

是非出席をお願いします、と頭を何度も下げて会社をあとにした、
あの若者の姿が脳裏をよぎった。


どうせなら、私が出ようか。

社長に許可をとったところ、意外にも快諾を得た。
いや、快諾というよりは・・・
別に困ることはないから出ても構わん、といったところか。
まあいい。
私のような者でも数には入るだろうし、
誰もこんな若造に画期的な意見など求めないはずだ。
この機会を逃さず、出来るだけ情報収集に努めることにしよう。
あの若者の仕事ぶりを拝見することが出来ないとも限らない。

さっそく出席届を私の名前でFaxし、今回の会合のゲストの欄を読んだ。


ああ、まいったな。
×長、××長、××長・・・・長ばっかりだ。
まあいい。 まあいい。


油断せず、慎重にいけばいい。
そういうところならば、少なくとも、少なくともあの若者と同じ位には慎重だ。
嘘は吐くな。
本音は小出しに。
相手を見くびるな。
見くびられることを拒むな。
敬意を払うのはほどほどに。
敬意を払われるのもほどほどに。
若手であるというメリットはここにこそある。

若手、か。
あと15年はそれでいけそうだ。
つまり私には、時間がある・・・
やれやれ、政治嫌いの私がよくもこんな事を。
これも業か、まあいい、私には時間がある。


ピアスをじゃらじゃらと着けた、あからさまな・・・糞餓鬼なのだから。
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